介護あるある

介護職が直面する「利用者さんと家族さんの意向の違い」

このページにはプロモーションが含まれています。
  1. リスジョブニュース >
  2. 介護あるある >

介護職が直面する「利用者さんと家族さんの意向の違い」

家族介護
 ケアマネージャーの仕事を始めた頃、一番ストレスだったのが「利用者さんの話や希望をゆっくり聞けないことがある」という、ケアマネならではのジレンマでした。

 しっかりしていて自分の意見を言える人や、訪問時利用者さんだけと話をし、モニタリングを行う場合は、もちろん本人の意向をきちんと尊重することができます。

 ところがそうではない場合、意思表示のできない本人の話よりも家族さんの話を多く聞き、家族さんの意向を優先させなくてはならないことも。

 私は
 誰のためにケアマネをしているのか。現場の仕事に戻りたい
 と何度も思いました。
 
 しかしながらあれから十年近く経ち、考え方は変わりました。
 利用者さんと家族さんの意向が全く違った一つのケースと、その結論の話をご紹介したいと思います。

認知症の本人「いつまでも家で生活したい」

 利用者さんはとてもダンディーでまだ70代の男性。足腰はしっかりされていました。物腰も柔らかく、本当に優しさがにじみ出ている方でした。
 ただ60代後半から認知症の症状が出て、家の中でトイレの場所がわからなくなったり、同じことを数分おきに話すなどの行動があり、その行動が許せない奥様の介護疲れが徐々に出てきていました。

 デイサービスに通い始めたのですが、自身では会社に通っていると認識され、非常に楽しんでくださり、介護保険の限度額いっぱいまで通うようになりました。

 同じ話を繰り返されるとはいえ、ADL(日常生活動作)は自立されていましたし、問題行動もない方でしたので、離れる時間ができた奥様の負担も減るし、このまま様子をみていけばいい、私も周りの事業所もそう思っていました。

 でもご家族はそうではなかったのです
渋めの男性

施設入居を検討する家族

 数多くの認知症の方を見てきた私からすれば、この利用者さんは軽度も軽度、まだまだ在宅で生活が可能なレベルでした

 しかしながらご家族はそうは思わず、こんなに認知症が進んでしまって、もう家では面倒をみることはできません、と訴えてきたのです。

 誤解のないように記しますが、私は施設を否定はしません。施設入所が悪だとは決して思いませんし、施設には施設の良さがあります。
 ただそう訴える奥様の横で、申し訳なさそうな顔をしながら、時折「家にいたいんだ」と訴える利用者さんを見て、私はケアマネとしてありとあらゆる提案をしました

 ショートステイを利用してもいいし、施設に入る費用を回して、自費でデイの回数を増やしてもいい。
 でもご家族は「家で見られません」の一点張り

 元々神経質な奥様だったので、変わりゆく夫の姿が許せなかったのでしょう。
 何度もお宅に訪問し、お話を聞くのですが、その横でいたたまれない顔をして座っている本人の姿がたまらず、私も結論を出しました。

そして結論は…

 家族さんの意向を汲み、施設探しを始めました。
 このままではストレスで奥様がどうにかなりそうだったし、毎日怒られる利用者さんにとっても、別の場所で暮らすほうがストレスなく生活できると判断したからです。

 事業所からは、「どうして?そんなに大変な人じゃないのに」と言われました。
 事業所は、あくまで利用者本人を主体に介護を行います。でも、家族全ての支援をするのがケアマネの仕事です。

 本当は私だって、大好きな自分の家から大好きなデイに通う利用者さんの生活を守りたかった。
 でもやっぱり長い目で見て、これ以上認知症が進む前に、また奥様が気持ちがいっぱいいっぱいになる前に二人を離した方がいいだろうと判断したのです。

 数ヵ月後、利用者さんはお試しで有料老人ホームのショートステイを利用しました。そして家族さんの意向でそのまま入所の運びとなり、家に帰ってくることはなかったのです。
介護施設と車いす

まとめ

 こう書くと、奥様がとてもひどいように思うかもしれないのですが、奥様も本当に穏やかでいい方でした。奥様にも奥様の人生があるのです。
 どちらかの意向を尊重しなくてはならない場合、やはり決定権のある人の意見が通りやすいのが現実で、多くの場合はそれは利用者さんではなく家族さんになるのです。
 お年寄りのお世話が好きでこの仕事を始めたのに、利用者さんの希望よりも家族さんの希望を聞かなくてはならないことも多く、ジレンマに陥ることもありますが、家族さんの支援をするのもケアマネの仕事ですので、そこの所は割り切って、冷静に最善の方法を探していけるようになりたいなと思っています。

-介護あるある

© 2021 lisujob