特別養護老人ホームなどの介護施設で生活する高齢者に対する虐待の事例が後を絶ちません。今回は、高齢者虐待について考えてみたいと思います。
施設内の高齢者虐待が急増中
厚生労働省の調査によると、令和2年度には施設職員による高齢者虐待の相談・通報が2097件あり、そのうち595件が虐待として判断されており、年々増加している状況です。
ニュースで取り上げられる虐待は、暴力を振るうなどの身体的虐待が多いですが、虐待にも様々な種類があり、中には施設内で虐待が行われているかどうか判断が難しいような事例もあるのではないでしょうか。
高齢者虐待の種類と原因は?
高齢者虐待はおおきく5つに分類されます。
1. 身体的虐待・・・身体に何らかの外傷を与えるような暴力を振るうこと
2. 介護放棄(ネグレクト)・・・食事を与えない、必要な介護をしないで長時間放置すること
3. 心理的虐待・・・威嚇や侮辱するような発言により高齢者に精神的負担をかけること
4. 性的虐待・・・性的な行為をすること、させること
5. 経済的虐待・・・お金を借りる、盗むなど
例えば、利用者の排泄介助で考えてみましょう。利用者からトイレに連れて行ってほしいという訴えがあったときに、職員の都合を優先させて待たせたまま放置して失禁してしまった。
この時、職員は利用者に対して強い口調で「ちょっと今忙しいから待っててよ!」と叫んだとすれば、利用者に対する精神的負担を与えていますし、そもそも日常生活の介助を放棄しています。
さらに、職員は早く介助を終わらせようと無理な力で利用者を引っ張って介助したためけがを負わせてしまったとしたら身体的虐待とも考えられます。これは極端な事例かもしれませんが、現実に有り得ることではないでしょうか。
施設職員が虐待を行ってしまう要因として、介護に関する知識・技術不足(高齢者虐待に関する知識、認知症の理解など)や職員自身のストレスなどが挙げられます。
また施設によっては、人手不足で介護現場が忙しいために職員の目が行き届かなくなってしまうことも考えられます。
私が介護をしていた時に直面したできごと
私が介護職として仕事をしていた時にこんなことがありました。寝たまま入浴できる特殊な浴槽に利用者を移動させる時に、本来は二人一組で介助をするところをある職員は一人で介助していたのです。
入浴介助は半日で十数人行うこともあり、過密スケジュールなこともあったので少しでも時間短縮を図りたかったようです。幸いけがを負わすような事故ありませんでしたが、その行為を発見してすぐに注意をしました。
介護の仕事は個人の技術を高めることも求められますが、基本はチームプレイです。
ここを忘れてしまうと、個人のプレッシャーも高まりますし、利用者の安全も確保されません。確かに体力のある介護職だと一人でできてしまう介助も多いですが、介護の仕事は様々な方が従事しています。
無理なく安全に介助できる方法に沿って皆で生活の質の向上を目指すことに介護の基本があるのではないかと思います。
その他にも、利用者を「〇〇ちゃん」とまるで友達のように話しかけている場面も気になりました。
時にはこうした場面も必要かもしれませんが、介護は利用者からお金をいただいてサービスを提供させていただいている立場ですから、長年ご活躍された人生の先輩への言葉かけとしてはあまり好ましくないでしょう。言葉には出さなくても不快に感じている利用者もいらっしゃると思います。
まとめ
虐待として判断されている件数は氷山の一角にすぎません。「あれ?私の介助は大丈夫かな?」と思った時に、相談できる、指導・助言できる職場環境と人間関係づくりが必要ですし、介護職として働いている方は皆その輪に入っているのです。
介護は、肉体的にも精神的にも大変な仕事だと思います。「疲れているな…」と思った時にはリフレッシュも忘れずにしていきましょう。
参考文献
厚生労働省,”令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果”
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000196989_00008.html