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ケアマネジャーが出会った利用者さん「在宅で望む介護」

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ケアマネジャーが出会った利用者さん「在宅で望む介護」

車いす
 介護の仕事は続けていく中で、たくさんのご高齢者と関わります。今回はその中でも印象に残っているおひとりについて、お話ししたいと思います。

介護保険サービス導入の経緯

 数年前の春先、包括支援センターの職員の方から電話が入りました。「介護保険の利用を希望されている方のご主人から連絡があり、ケアマネジャーを探しているので担当して欲しい。」との事でした。
 ご利用者のHさん(仮名)は80代の女性で、ご主人と2人暮らし。週3回の透析治療に通っていて、ご主人が車で送り迎えをしていました。
 透析治療の送迎のみならず、要介護4のHさんには日常生活全般にわたり介護が必要で、その全てをご主人が1人で担っていました。

 先日Hさんが転倒し、ご主人1人では移動に伴う介助ができないという事で介護保険サービスを利用することになりました。

利用者さんと初対面

 ご主人は非常に柔和な方で、初回訪問時も笑顔で対応して下さいました。玄関を上がり、居間に通されると、Hさんが椅子に座っていました。Hさんは露出している肌、顔や腕などは紫に近い褐色で、痛み止めと思われる貼り薬を至る箇所に貼っていました。

 耳が遠いとのことで、大きな声で挨拶するも聞こえず、目の前まで行くと目を見開きギョロリと私を見つめました。当然誰だか分からず、何をしに来たのかも把握できていない様子でした。
 介護保険サービスについての説明や契約など一通りご主人に説明し、ご希望通り屋内からご主人が運転する車までの移動介助、および車椅子・上がり框の手すりのレンタルが開始となりました
 その他入浴介助排泄介助など日常生活においてもヘルパーなどの導入を提案しましたが、ご主人は自分で行うと主張。
 ケアマネジャーとして心配や不安は残りましたが、透析治療時のみのサービス利用となりました。
介護タクシー

ご主人の介護

 移動の介助は、ほとんどいつもご主人とヘルパーと2人で行いました。特に最初のうちはヘルパーに対する不信感と不慣れであることから、ヘルパーが手を差し伸べても拒否が見られました。常にご主人の介助を望み、ご主人の介助を褒め、そしてご主人に感謝の意を伝えていました。
 それと共に、ご主人に小言を言うこともありました。車の停め方が悪い、運転が荒くて体が痛む、置いてある靴の向きが違うなど。その都度ご主人は素直に聞き入れ、時には受け流し、そして疲労の表情を浮かべ、私に言いました。

 「とても疲れた」と。

 介護とはご利用者本人のケアであると同時に、ご家族のケアでもあります。私たちが行う介護により、ご家族の負担が軽減されることも非常に重要なのです。
 しかし、その目的がいつでも正しいとは限りません。こちらのエゴによる介護は必要とされない場面があるのです。Hさんはご主人の介護を必要とし、そしてご主人はその要望に応え続けました。

拒否から受容へ

 3ヶ月ほどすると、Hさんはヘルパーの顔を覚えてきました。口数は少なく、会話と言う会話はほとんどないものの、笑顔で対応してくれるようになりました。
 暑い時にはヘルパーを労い、冷たい飲み物を出すようにご主人に要求しました。祝日に訪問すると「お休みの日にすみません」と言い、雨の日にも謝りました。
 透析治療が長引き、帰宅が大幅に遅れた際は財布からお金を出し、ヘルパーに渡そうともしました。
 信頼関係と呼ぶには不確実かもしれませんが、そこには思い合う姿があったかのような気がします。変わらずギョロリと見つめられますが、視線で挨拶が交わせるようになっていたと思います。

 誰でも最初は、特に高齢者は猜疑心が強い傾向にあります。それは経験であり、自己防衛であり、自尊心でもあるのでしょうか。そのような時、私は時間に任せることにしています
 しっかりと挨拶をし、訪問を重ね、地道に時間を積んでいく作業です。無理に距離を縮めようとせず、しかし時には天気の話などを織り交ぜながら。
積む女性

透析治療という生きがい

 寒い冬の朝、ヘルパー事業所からFAXが届きました。「今朝のHさんは機能低下が著しく、ヘルパーによる介助で車に乗った」という報告でした。
 そして昼過ぎ、ご主人からの電話でHさんが亡くなったことを知らされました。長年の介護から開放されたご主人は「最期は呆気なかった」と言い、そして「思い出すと寂しいので写真は飾らない」と言いました。

 実に20年にわたり、介護を続けてきたご主人。雨の日も風の日も透析治療に通い続け、それは2人にとって生きがいになっていたと言いました。
 「透析治療が生きがい」という言葉に何とも言い難い違和感がありましたが、「やはり人の幸せのカタチはそれぞれなのだ」と自分の中に押し込んだのを憶えています。

まとめ

 介護職とは、利用者さんの人生のほんの一部に携わる仕事に過ぎません。在宅系の介護職では、時間が決まっている訪問内のため、関わる時間は限られます。その他のほとんどの時間は、家族が共にしているのです。
 断片的にしかお手伝いできないことに、心残りも多々ありますが、それでも利用者さんとご家族が少しでも前向きになれたら、私たちの仕事は上出来ではないでしょうか。
 やはり介護職は家族の代わりには成れず、また成れないことを受け入れなければいけないと思うのです。

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